ナナカラ フォー ドクター
信州大学医学部附属病院 てんかんセンター | 副センター長 福山哲広先生
今回は、信州大学医学部附属病院 てんかんセンター 副センター長の福山先生にお話を伺いました。
先生ご自身の医療観や、6月に設立された「てんかんセンター」として診療の中で大事にしたい所もお聞かせいただきました。
ー お時間をいただきありがとうございます。まず先生ご自身のことについてお聞かせいただければと存じます。いろんな診療科があると思うのですが、その中でも小児科を選んだ理由を教えてください。
福山先生:難しい質問ですね(笑)。
きっかけは、小学校4年か5年生の時に、授業で地域の特別支援学校に行ったことだと思います。そこで初めて障害のあるこどもたちと接しました。積極的に交流する生徒もいましたが、自分は隅っこの方で消極的に参加していました。障害を持っているこどもとどう向き合えばいいのかわからなかったんです。家に帰ってそのことを当時、特別支援学校の教師をしていた父親に話したら、「お前がああいう障害を持ってなくてよかった」と言われたんです。今となれば父親の気持ちは分かりますが、当時は「その違いをそれだけですませていいのか」という思いがありました。障害をもつ人の存在が自分の中で上手く消化できなかったもやもやが残りました。
大学6年生で進路を決める段階になったときに、ふとあの時の感情を思い出しました。小児科医になって、病気や障害を持ったこども達と仕事として向き合えば、自分と彼らの存在価値が見えてくるのではないかと。それが小児科医になった理由だと思います。
小児科医になって経験を重ねた今は、病気や障害をもっているこども達とその家族は、理不尽な社会を少しでも変えていくための仲間だと思っています。
ー 先生が専門とされているてんかんの診療で心掛けていることはありますか?
福山先生:てんかんは小児科、脳神経内科、脳神経外科、精神科にまたがる領域で、患者さんにとってみれば、どこに行けば専門的な診療を受けられるのかわからない領域です。てんかんで悩んでいる人も、またてんかんかもと思っている人も「ここに行けば大丈夫」と思ってもらえる選択肢が必要です。長野県には長年その選択肢がなかったため、当院にてんかん外来を作りました。
てんかんは誤診が生じやすい領域なので、実際の診療では“事実”を記録するように心掛けています。具体的にいうと、患者さんが言ったことを復唱しながらカルテに入力して、間違いがないか確認するようにしています。こうやって一緒に記録を作っていくことで、患者さんも「診療に参加している」という感覚を持ってもらえると思っています。この事実を記録する、ということはとても重要です。実は、nanacara for Doctorを利用するのもそういった狙いがあります。
検査技術は格段に進歩しており、それで診断がつく疾患も増えましたが、てんかんはそうはいかないです。患者さんの話から出てくる情報を基に診断へ導かないといけません。それに患者・ご家族がどう思うか、どう感じたかというところもとても大事です。ただ、それがてんかん診療の面白いところだし、医師としての役割を感じるところだとも思っています。
ー てんかんは思春期のお子さんが多いと思いますが、気をつけていることはありますか?
福山先生:てんかんの最大の特徴は、当事者である患者さん本人が意識を失っている、それを見ているご両親が「この子、死んじゃうんじゃないか」っていう強い思いを持ってしまうこと。この”親”と”子”の危機感の乖離が生じてしまうことを認識してもらうことが重要です。ご家族には、「この病気と向き合うのは本人なので、気持ちはわかるけれどもお父さんとお母さんの心配は2割しか聞けません。本人が“てんかん”という疾患に向き合うために8割を費やします」と、伝えています。
本人には「何のために治療をするのか、しないとどうなるのか」を本人が理解できるように伝えていきます。
ー なるほど、大人になっていくことを見越して“本人が向き合えるように“関わるということですね。
てんかんの成人移行期支援の点でもとても重要になりそうなですね。成人診療科への移行はいかがでしょうか。
福山先生:まず、小児期発症てんかんを診療するには膨大な知識が必要であり、そのレベルを神経内科などの成人診療科の先生に求めるのは少し無理があると思っています。それよりも、小児科の医師が成人診療科医の相談に乗れる体制が移行期医療の一つの解になるのではと思っています。なので、そういう理想型も視野に入れながら今の信州大学医学部附属病院てんかんセンターの形になっています。
ー そうなのですね。てんかんセンターの立ち上げに際して、周囲から反応はありましたか?
福山先生:医療者の反応はそんなにないのですが、患者さんやご家族が喜んでくれています。診療体制が整うこと、また、「てんかん」が世間に取り上げられているということ自体が患者さんの力になっていると感じています。ニュースを見た患者さんが嬉しそうに声をかけてくるんですよ。
▲電車カルテの仮想インターネットから“nanacara for Doctor”をご利用している様子
ー メディアに取り上げられることが患者・ご家族の力になるのですね。それでは、nanacaraについてお聞かせいただければと思います。
福山先生:nanacaraが優れていると感じるのは、変化に柔軟な所です。患者サイド、医療者サイドの意見を取り入れて常にいいものに変えようとしているのが驚きでしたね。いいものは最初からできないので、常に改良を重ねるのは何に於いても同じだと思います。
nanacara for Doctorでその記録が見られるのもいいですよ。特に発作グラフですね。単純に見やすいですし、患者・ご家族が診療に参加している感覚を持ってもらうために利用しています。自分が記録した情報がこの画面(先生の手元の画面)で出てくるから「ほら先生、見てよ!」って嬉しそうに話してくれるんですよ。”繋がった”っていう感覚になれるみたいです。
こういう“診療に参加している”感覚を持てることがすごく大事なんですよね。
ー 患者・ご家族が診療に参加している感覚が大事なのですね。
最後に、ノックオンザドアに期待することをお聞かせください。
福山先生:端的に言うと、経済的に儲けて、nanacaraを継続してください。しっかりと利益を出せるビジネスモデルができれば、社会的に価値があることになりますからね。ぜひ証明してほしいです。
「てんかん」という疾患に関わることで、価値を示せる。これを証明することで「患者・ご家族を光に社会を照らす」という弊社のパーパスに繋がると改めて感じました。
お時間をいただき、誠にありがとうございました!
▲向かって左から、福山先生、ノックオンザドア(株)石山